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第5話 ショウとの出会い

Author: 釜瑪秋摩
last update Last Updated: 2025-07-19 19:25:24

 オフ会を断り続けてようやく春休みが終わった。今日から高校二年生になる。

 アキたちからの連絡はまだ来ているけれど、以前より少し距離を感じる。きっと私が会いたがらないことで、困惑しているんだろう。もしかすると、嫌われてしまったのかも知れない。

 でも仕方ない。これが私の現実だから。

 今日は金曜日。学校から帰ると、いつものようにスマホを開く。最近よく覗いている新しい掲示板に、興味深いスレッドが立っていた。

『今期アニメの隠れた名作について語ろう』

 タイトルを見ただけで、心が躍る。まさに私が語りたかった話題だった。最近見始めた作品で、まだあまり話題になっていないけれど、すごく面白いものがある。

 スレッドを開いてみると、まだ投稿は少ない。立てた人の書き込みを読んでいくと、私と同じような感性を持っている人のように感じられた。

 思い切って、レスを書いてみる。

「スレ立てありがとうございます。私も最近、あまり注目されていないけれど素晴らしい作品に出会いました。「星降る街の物語」という作品なんですが、ご存知でしょうか?キャラクターの心理描写が繊細で、特に主人公の内面の成長が丁寧に描かれていて……」

 長々と感想を書いて投稿する。こういうときだけは、文章を書くのが楽しい。誰も私の顔を見ていないから、思ったことを素直に表現できる。

 しばらくすると、返信が来た。

『はじめまして。「星降る街の物語」知ってる人がいるとは思いませんでした! 僕も先週から見始めたところです。確かに心理描写が秀逸ですよね。特に第三話の主人公の独白シーンは鳥肌が立ちました。NORIさんのレビュー、すごく的確だと思います』

 投稿者の名前を見ると、「ショウ」と書いてある。私の投稿にきちんと目を通してくれて、しかも共感してくれている。なんだか嬉しくなって、すぐに返信を書いた。

「ショウさん、ありがとうございます! 第三話の独白シーン、本当に素晴らしかったですよね。あのシーンで主人公への見方が完全に変わりました。まだ見ている人が少ないのが残念ですが、きっと後から評価される作品だと思います」

 そこから、二人の間で活発なやり取りが始まった。作品の細かい演出について、キャラクターの心理について、声優の演技について。話せば話すほど、ショウの感性が私と似ていることがわかってきた。

 気がつくと、もう夜の十時を過ぎていた。

「もうこんな時間ですね。楽しくて時間を忘れてしまいました。ショウさんとお話しできて良かったです」

『こちらこそ、ありがとうございました。久しぶりに熱く語り合えて楽しかったです。また機会があったら、お話ししましょう』

 その夜、ベッドに入ってからも、ショウとの会話が頭に残っていた。アキたちとも仲良くさせてもらっているけれど、今日のような深い話ができるのは珍しい。なんというか、波長が合うというか、話していて心地良い相手だった。

 翌日の土曜日、朝からスマホをチェックすると、ショウから個人的なメッセージが届いていた。

『昨日はありがとうございました。たくさん話ができて、とても楽しい時間を過ごせました。もしよろしければ、個人的にお話ししませんか? スレッドを埋めちゃうのもなんですし、他にもおすすめの作品があるので、情報交換できればと思います』

 心臓がドキドキする。個人的なやり取り。つまり、二人だけの会話。

 ――でも、ちょっと待って。

 ショウのことを、私はなにも知らない。年齢も、性別も、住んでいる場所も。ネット上では、自分を偽って書き込む人もいる。特に、女性に近づこうとする悪意のある男性もいるって聞いたことがある。

 慎重に、返信を書く。

「こちらこそ、ありがとうございました。私もとても楽しい時間になりました。個人的にお話しさせていただくのは構いませんが、もしよろしければ、簡単に自己紹介をお願いできますか?」

 すぐに返事が来た。

『もちろんです。僕は高校二年生の男子です。関東在住で、アニメと漫画、あと読書が好きです。将来はなにかクリエイティブな仕事に就きたいと思っています。NORIさんはどんなかたですか?』

 高校二年生。私と同じ年代だ。でも、本当だろうか。ネット上で年齢を偽るのは簡単だし、女性に近づくために若い男性のふりをする人もいるかもしれない。

 ショウとの昨日の会話を思い出す。

 作品について語るときの熱意や、細かい部分への注目。あれは本当にアニメが好きな人の反応だった。それに、文章の雰囲気も、確かに同年代の男の子っぽい感じがする。

「私も高校二年生です。同じ学年なんですね。私もアニメと漫画が大好きで、時々イラストを描いたりしています。小説も良く読むほうです。よろしくお願いします」

 そこから、二人だけの会話が始まった。最初は当たり障りのない話題から。好きな作品のこと、学校生活のこと、小説や漫画、映画のこと。

 ショウとの会話は、なにか違う気がした。アキたちとの会話とは、明らかになにかが違う。

 ショウは私の話をじっくり聞いてくれる。そして、的確な返事をしてくれる。私が曖昧に答えた部分も、深く掘り下げて聞いてくる。まるで、本当に私のことを知りたがっているみたい。

『NORIさんのイラスト、ぜひ見てみたいです。アイコンの絵も、すごく上手だと思います』

「ありがとうございます。でも、まだまだ下手くそで……」

『そんなことないと思いますよ。絵を描くのって、技術だけじゃなくて、心がこもっているかどうかが大切だと、僕は思うんです。NORIさんの絵からは、温かさが伝わってきます』

 温かさ。私の絵から、温かさが伝わる。

 そんなこと、今まで誰にも言われたことがなかった。学校では、私の絵を見る人なんていない。家でも、両親は私の趣味に興味を示さない。

 ショウはなぜか、私のことを認めてくれている。

「ショウさんは、将来、なにになりたいんですか?」

『小説家になりたいんです。人の心を動かすような物語を書きたくて。でも、まだまだ勉強不足で、道のりは長そうです』

 小説家。素敵な夢だ。そして、人の心を動かしたいという気持ち。なんだか、私がイラストにこめる想いと似ている。

「きっと素晴らしい小説家になれると思います。これまでお話ししていても、ショウさんの言葉選びがとても上手だなって感じました」

『ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです』

 お互いのことを語り合い、お互いを励まし合う。こんな関係、今まで経験したことがなかった。

 私の心の奥で小さな不安が芽生えている。

 ショウは本当に高校生なんだろうか。本当に私が思っているような人なんだろうか。そして、もしそうだとしても、いずれは他の人たちと同じように、実際に会いたがるようになるんじゃないだろうか。

 そのとき、私はまた同じように逃げ出すことになるのだろうか。

「今日は長い時間、ありがとうございました。とても楽しかったです」

『こちらこそ。また明日も、お話しできればと思います』

 スマホを置いて、ベッドに横になる。今日は今までで一番充実した一日だった。ショウとの会話は、心の奥まで暖かくしてくれる。

 同時に、不安も膨らんでいる。

 この関係は、どこまで続くんだろう。そして、私はどこまで本当の自分を隠し続けることができるんだろう。

 窓の外では、もう夜が深くなっていた。でも私の心は、まだショウとの会話の余韻に浸っていた。

 こんな気持ちになったのは、初めてかもしれない。

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